お風呂の話

★寒い外から帰って来て入るお風呂は格別。 但し、寒かったからといって、 いきなり熱い湯に入るのは禁物。 熱さがストレスとなって、 動脈と静脈を結ぶAVA(動静脈吻合)が、 閉じてしまうと体が芯から温まらないから。 ★今も地方の旧家に残る「五右衛門風呂」とは、 風呂釜そのものが鉄で出来ていて、 直接釜を加熱する。 底は熱くなるから「風呂下駄」を履いたり、 丸い木製のスノコを沈めて入る。 1950年代までは多く見られたお風呂。 ★日本一の大泥棒「石川五右衛門」が、 沸騰する大釜で死罪になった事に習い、 「五右衛門風呂」は鉄製の風呂釜を、 直接火にかける。この方式だと、 加熱釜が別の方式より、 燃料が半分で済む為に江戸時代に復旧した。 ★江戸時代の銭湯は入り口は男女別だが、 中は大きな湯船が一つの男女混浴。 1841年に風紀上問題ありと禁止されたが、 当時の人々は大らかで、 女性からのクレームもなく、 明治時代なって初めて仕切りが出来た。 ★旅館に泊まると、 冬は「丹前」という厚手の防寒衣が用意される。 江戸時代、 神田・掘丹後守(ほりたんごのかみ)邸の前に、 大きな銭湯があり常連客が冬の湯冷めを防ぐ為、 中綿入りの着物を着て居た事から、 「丹前」と呼ばれ始めた。 ★平安時代からタオルはあったが、 高貴な方達が使うだけに、 手足に使う「手拭い(てぬぐい)」、 体に使う「浴巾(たなごい)」、 顔に使う「顔拭(かおのごい)」 と、3種類に分けられていた。 もちろん1回使うだけの使い捨てで、 家来達がお下がりを貰っていた。 ★江戸時代初期のタオルは、 木綿が超高級品だった為に、 ほとんどが麻から作られていた。 初期のサイズは長さ1.5mもあったが、 だんだん短くなり、 大丸呉服店(今の大丸百貨店)が、 75cmサイズに統一した。 ★江戸っ子は熱いお風呂が好きで、 夏でも顔を真っ赤にして湯船につかるというが、 現在まで残る資料から推定すると46〜48℃。 今の湯温は、普通は40〜42℃くらい。 ★激しい運動をした後のお風呂は、 42℃くらいの熱めが良い。お湯の熱さにより、 目が覚めてる時の体を司る交感神経が刺激され、 疲労回復の効果があるから。 逆に神経が疲れた時はぬるめのお風呂が効果的。 ★名古屋人のサウナ好きは有名で、 サウナ風呂の数、スポーツ施設での設置数、 ともに日本ナンバー1。 なぜ名古屋人がサウナ好きかについては、 手軽にカロリーを消費してくれて、 値段も安いという合理的精神という説がある。 ★長島茂雄巨人軍永久名誉監督は現役時代から、 胸より深くお風呂につかる事がなかった。 「心臓に悪い」という理由からで、 笑い話になっているが、 これはお風呂の水圧とも関係して、 心臓への負担が軽い入り方。 ★日本の家庭にお風呂が普及したのは、 1960年代から。それまでは、 お風呂のある家に、 「もらい風呂」と言って入らせてもらったり、 「銭湯」に行ったりで、 夏はバケツの水をかぶったりもしていた。 ★ギャンブラーにはお風呂嫌いが多い。 ギャンブルを始めると、 お風呂に入る時間も惜しむという理由もあるが、 お風呂で汗や垢を流す事から、 ツキも一緒に流してしまう、 というゲンかつぎからきているとか。 ★古代ローマ人のお風呂好きは有名で、 ドイツ、イギリスなどを征服したら、 まず巨大浴場を建設したほど。これは、 入浴すると健康になると信じていたからで、 軍隊の活力を取り戻す為の軍事施設でもあった。 ★欧米ではシャワーがメインで、 お風呂にはあまり入らない習慣がある。 中世ヨーロッパで、 はお風呂に入る事が宗教的儀式となっていて、 体より心を清める為の物、 という考え方が現代まで残っているから。 ★中世ヨーロッパの修道院では、神の道に背いて、 罪を犯した時の罰として入浴があった。 氷のように冷たい水のプールに、 何度も潜らされて心と体を清めたという。 普段でも、お風呂は冷水でお湯は使われなかった。 ★平安時代のお風呂は、 今のサウナのような物だった。 スノコを敷いた小屋の中に、 蒸気を吹き上げさせて入り、 汗や垢を布で拭き取っていた。 だから、宮廷の貴婦人の 十二単(じゅうにひとえ)なども、 襟や袖は垢で真っ黒だった。 ★蒸し風呂に入る時に、 スノコに直接座るとお尻が熱い為に、 大きな布をたたんでその上に座った。 これが「風呂敷」のルーツで、江戸時代には、 銭湯へ行く時の着換えの下着を包んだり、 中には手拭きがわりにする者も居た。 ★銭湯では、 男女別に入る事が条例で定められている。 何歳まで混浴OKかというと、 各都道府県条例により異なっている。 一般的には、 小学校入学前ぐらいまでが限度のよう。 ★お酒の大好きな人に注意したいのが、 酔っている時の入浴。 お風呂での事故の多くは、 酔っている時に起きるから。 足を滑らせ転ぶ事も大変な事だが、 心臓に大きな負担をかけ心停止もあるから怖い。 ★銭湯の番台は何故か脱衣所に向いている。 これはオヤジが女性客の裸を見たいから(笑) ではなく、犯罪防止の為。 お風呂に入っている時に、 持ち物が盗まれないようチェックしたり、 酔っ払いの喧嘩を止める為。 ★人体生理学上、サウナ風呂(蒸し風呂)は、 湯船につかる普通のお風呂より体力を消耗する。 特に、心臓に負担をかけるから、 健康な人でも15分以内で出るようにしよう。 出てすぐ水風呂に入らず、 ある程度体を冷ましてから入りたい。 ★火山国日本には多くの温泉がある。 昔の日本人は、 温泉をもっぱら病気治療の為に利用していた。 最古の記録には、696年に近江(今の滋賀県)の、 鈴鹿山系中の温泉で、皮膚病に苦しんだ患者が、 治ったと残されている。 ★江戸時代末期の、 漢方医・香川太仲(かがわたちゅう)は、 5000人もの患者を診察、温泉浴で、 病状がどのように良くなったかを記録した。 現在の西洋医学でも、 一定の効果がある事は認められているが、 医学的にはっきり証明されていない。 ★老人の中には、 石鹸の事を「シャボン」と言う人も居る。 17世紀頃に、フランス・シャボン地方が、 石鹸製造の本場で世界中に広まったから。 江戸時代には高価な物で、 皮膚病の薬品とされていた。 ★日本最古の石鹸メーカーは花王石鹸。元々は、 外国産の商品を主として扱っていた長瀬商会が、 1890年10月に、外国産石鹸に負けぬ高品質の、 「花王石鹸」を発売し大ヒット。日本中に広めた。 ★中世ヨーロッパの人々は、 お風呂には滅多に入らなかったが、 フォークがなかった為に、 食事は全て手づかみだったので、 手だけはよく洗っていた。この名残りが、 今もレストランで出される、 指洗い用のフィンガーボール。 ★お風呂に入ると疲れが取れるのは、 血液の循環が良くなると同時に、 全身のマッサージ効果があるから。 お風呂に首までつかると、 バストで1〜4cm、ウエストで3〜7cmも、 水圧で引き締まりコリをほぐしてくれる。 ★韓国にも日本とよく似た銭湯がある。 変わっているのは営業時間で、 朝6時にオープンする変わりに夜は8時で終わり。 朝風呂の習慣があるから。 靴磨き屋も併設され出勤前に靴も磨いてくれる。 ★欧米と日本のお風呂で、構造上、 最大の違いは欧米はトイレ併設が多く、 日本はお風呂が単独な事。 欧米のトイレは近代になると、 基本的に水洗トイレとなり、 日本のように、 汲み取り式ではなかったから併設された。 ★16世紀頃まで、 ヨーロッパでは夜になると全裸で眠っていた。 裸は恥ずかしい物ではなく、 たまにお風呂に入る時でも、 家族はもちろん、友人、知人、 誰もがオールヌードになって、 お風呂の順番を待って居たほど。 ★ユニットバスは1938年に、アメリカの発明家 バックミンスター・フラーが考案した。 初めは、薄い銅版を成形して、 石鹸入れから浴槽、洗面台、便器まで作ったが、 強化プラスチックに変わってから、 普及していった。 ★古代キリスト教は、 お風呂にのんびりつかって居ると、 精神がたるむと入浴をすすめなかった。 この為、熱心な信者は、 子供の頃から50年以上も体を洗わなかったり、 お風呂どころか水浴びすらしない者が居たほど。 ★古代ローマ人は公衆浴場に行く時に、 香油、垢をかき取る為の金具4〜5本、 スポンジ等を持って行った。 蒸し風呂で汗を流した後に、 香油を体に塗って金具でかき取り、 さらにスポンジで拭き取ってから入浴した。 ★石鹸が普及するまで日本人が使っていたのは、 精米する時に出るヌカや米のとぎ汁。 ヌカは袋に入れて体を洗い、 とぎ汁はシャンプー変わり頭髪を洗った。 ヌカ袋は垢は落ちるが、 匂いはあまりよくないそうだ。 ★銭湯や温泉を表す地図記号が、 初めて使われたのは1885年、 日本陸軍参謀本部測量課の軍用地図だった。 この記号、日本陸軍が プロシア(今のドイツ)陸軍が、 使っていた物をそのまま真似した物。 ★今では常識となったシャンプー、リンス、 コンディショナー等のヘアケア商品だが、 日本に普及したのは、1970年代から。 それまで髪を洗っていたのは、 体と同じ石鹸で普通は週に2〜3回程度だった。 ★お風呂が嫌いという有名人も多い。正確には、 お風呂に入って髪や体を洗うのが嫌らしい。 作家の五木寛之は、 「洗髪は年4回」と書いているし、 阿佐田哲也の口癖は、 「風呂は月に1回、体を洗うのは年に1回」だった。 ★最も原始的なお風呂は、 自然界の川や湖、海など。 イギリスの建築家ローレンス・ライトは、 19世紀のロンドン住民により、文明的には、 はるかに遅れているポリネシア原住民の方が、 水浴びしているので清潔と言う。 ★風邪で高熱を出している患者を、 イギリスでは冷たい水の湯船に入れる事がある。 日本人から見れば非常識な治療法だが、 高熱をさますには効果的とも言える。 但し、衰弱している患者には命の危険にもなる。 ★これまで発見された最古の湯船は、 今から3700年も前の、 クレタ島で使われていた物。 クレタ文明の中心、クノッソス宮殿には、 今のバスタブとほとんど変わらない湯船があり、 給排水設備も整っていた。 ★日本人以上にお風呂好きだったのが、 古代ローマ人。 今もローマに残る「カラカラ浴場」は、 一度に1600人が入れる巨大公共浴場だったし、 全盛期のローマ人は、 1日に1400リットルもの水を、 主にお風呂に使っていた。 ★映画などのギリシア人の入浴シーンは、 ローマ時代の習慣と勘違いしている事が多い。 ギリシア人は、 スポーツのあと入浴する習慣があったが、 温水ではなく冷水をかぶる程度。 ゆっくりくつろぐような事はなかった。 ★ユニットバスはアメリカで発明されたが、 アメリカ人からは好まれず、 一般住宅ではほとんど使われていない。 ところが、日本では大ヒットしている。 一般住宅の占有面積が アメリカの方が広いからと見られている。 ★江戸時代、武士の家庭では入浴する時に、 男子は「ふんどし」、女子は「ゆもじ」 という巻きスカートのような下着を、 身だしなみとして着けていた。 商家、農家では、 今と同じように何も着けずに入浴していた。 ★1820年代に江戸で大ヒットしたのが「薬湯」。 箱根や熱海の温泉から、 湯を大きな樽に詰めて船で江戸まで運び込み、 銭湯に専用の湯船を作って入浴させた。 入浴料は普通より4倍も高かったという。 ★役者や力士がファンへ浴衣を、 プレゼントするのはPRの意味も入っている。 江戸時代中期頃から、 名前や家紋を染めぬいた浴衣を、 配るようになったが、 有名人のファンに着てもらう事で、 自分の名前を売っている。 ★今の銭湯は明るいが、 江戸時代の銭湯は昼でも暗く、 照明はほとんどなかった。 これは燃料節約の為に、 お風呂の湯温をなるべく下げないように、 窓を作らず、入り口も狭くして、 建物全体を囲いこむ設計になっていたから。